白い巨人よ、永遠に

Twitterに収まりそうにない内容のものを載せていきます。

ルカ・モドリッチ解体新書〈3-1〉俊敏かつ持久的なフィジカル

 

【余談】

いつも当ブログをお読みいただきありがとうございます。

応援や感想も予想以上に頂いている嬉しさから、完結することが惜しいような気さえしています。

 

さて、以前からお伝えしていた全四章12記事構成ですが、内容の重複と再配分により、全三章10記事構成に再変更します。モドリッチは10という数字が似合うのでキリもいいかなと。

今回で7記事目なので、あと3つですね。

 

第三章はフィジカル、インテリジェンス〈前編・後編〉、パーソナリティに注目していきます。第一章・第二章ではモドリッチのテクニックに注目しましたが、それらのテクニックを具現化・最大化しているのが、これらのベース能力なんです。

 

それではこの三つの中で、最も意外性のあるテーマを取り上げていきます。

 

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〈俊敏かつ持久的なフィジカル〉

 

モドリッチは小柄だから、フィジカル(身体能力)が優れている」
と言うと、意外に思われるだろうか。大抵の場合、『フィジカル能力がある=筋骨隆々としてパワーやスピードが圧倒的』というイメージが思い浮かぶかもしれない。たしかに筋肉量や背丈も身体能力の高さを測るための一要素なのだが、それ以外にもサッカーに必要とされるフィジカル要素はある。一例をご紹介すると、

 

①身体骨肉
 *筋肉量・骨密度
 *筋瞬発力・筋持久力・回復速度
 *身長・体重・体格
②心肺機能
 *心臓(血流量・血流速度)
 *肺活量(吸引量・排気量)
 *血管(強度・酸素供給量)
③神経系統
 *動体視力・視野
 *一般聴覚・選択聴覚(必要な音を聞き分ける)
 *身体操作(思い通りに全身を操る)

 

たしかにモドリッチは身長が低く、細身に見える。だが、心肺機能や神経系統では、一流アスリートの水準以上のレベルにある。サッカーは身体のぶつかり合いや、高いボールの競り合い“だけ”で勝負するスポーツではないため、それらがデメリットになるゲーム状況も限定的なものとなる。

 

そして、最も誤解されているのはモドリッチの筋肉量だ。身長は172cmなのだが、なんと体重は66kgもある。BMI(身長から計る適正体重)の値は+0.92で、脂肪の少なさから逆算すると、相当量の筋肉が詰まっていることになる。モドリッチは、あんなにキュートな容姿をしていながら、実は隠れマッチョなのだ。

 

では体のどこに、どんな働きをする筋肉を備えているのだろうか。第一に挙げられるのは、アジリティ(俊敏性)だ。モドリッチは華麗なターンやドリブルを披露するが、あのパフォーマンスには、瞬発的な筋力(加速・減速装置)が欠かせない。モドリッチの異様にゴツい太腿を見てほしい。(写真はマドリー公式Twitterにアップされた練習風景)

 

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ドヤッ

 

この写真では、大腿四頭筋(もも前)・内転筋(内股)・下腿三頭筋(ふくらはぎ)などが発達しているのが見て取れる。この三つ前側の筋肉は主に、ブレーキ(止まる・切り返す・耐える)動作に関係しており、肉付きのバランスも良いため、あらゆる方向への急停止・身体固定を可能にしている。

 

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美しすぎて尊いシュートモーション

 

シュート写真では、太いハムストリングス(もも裏)もチラ見せさせており、この部位が走りだしの早さやシュート時の振りの速さを実現している。足裏に付いている筋肉群は車で言うところのアクセルに該当。つまりモドリッチは、軽自動車にスーパーカー用ハイブリットV8エンジンを積んでいるような身体なのだ。車体は軽くて小回りが利くのに、燃費の良い高出力エンジンを搭載しているからギュンギュン走って、ピタッと止まる。

 

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腹直筋や腹斜筋もエッチだ(でも乳首だけは華麗にガード)

 

アジリティの高さは、
①静止状態から急加速(トップスピードになるまでの時間の短さ)
②高速度から急停止(トップスピードから停止までの時間の短さ)
の二つの指標で評価できる。モドリッチはこのアジリティの高さなら、世界トップ10に入るほどの実力の持ち主である。

 

ボールをもらって『急加速』でターンする。プレスしてきた相手と対面すると『急停止』し、半身でボール保持すると見せかけて、また『急加速』のドリブルをして抜き去る――残像(代わり身の術)を見せて駆けていく姿はまさに忍者。高度なテクニックを披露するためには、この異常に高い俊敏性が欠かせないのだ。

 

さらに付け加えると、『小柄(低身長・低体重)であることが俊敏性の高さを最大限にまで引き出している』とも言える。原理を説明すると物理学の領域に立ち入ってしまうのだが、身長が低ければ低いほど重心も低くなり、体重が軽いほど移動にかかるエネルギー量も小さくなり、それらの結果として初動スピード・ストップのコストが安くなる。ようするに、小柄な方が機敏に動きやすいという話だ。メッシとクリスティアーノ・ロナウドのプレイを比較してみるとわかりやすいかもしれない。モドリッチはメッシに近く、トップスピード(最大速度)よりもストップ&ゴーの機能に優れている。

 

さらに(トップアスリートにしては)軽い体重は、スタミナ(持久力・回復力)の高さにもポジティブに影響している。車体が重ければ、必然的に燃費も悪くなる。心肺機能も高いが、それだけではモドリッチの豊富なスタミナを説明することは出来ない。一試合通しての運動量だけでなく、数試合またいでの連戦や、シーズン通して所属クラブ・ナショナルチームのハードなスケジュールをこなしていくだけの持久力・回復力は、他のMFの追随を許さないレベルにある。

 

最後に紹介したいのは、モドリッチのボディバランスの良さだ。『小柄だから当たり負けする』というのは通説だが、それでもモドリッチは『当たられてもボールをキープする・悪質ならファールをもらう』が徹底されている。一時期のプレミアリーグでは、フィジカルコンタクトが無法地帯のように許されていたが、そんな時代でもモドリッチはしぶとく生き残ってきた。

 

そもそもサッカーは『体を当てた勝敗』を競うスポーツではない。当てようとしてきた相手が見えていたり、足音で気配を感じているのならば、それを避けたり、当たるポイントをズラすことが出来る。重心の低いモドリッチは、相手が当たりに来ても、重心(当たられると全身がブレてしまうポイント)をさらに低くして、致命傷を避けている。同じ背丈同士の対決ならパワーVSパワーになるのだが、高身長VS低身長の対決だとパワー(鈍重)VSアジリティ(機敏)の戦いへと変わってしまうのだ。

 

モドリッチは小柄だから、フィジカル(身体能力)が優れている」と、冒頭で紹介した。もしこの記事を最後まで読んでくれたあなたが「小柄であることも、モドリッチの長所の一つなんだな」と思うようになってくれたら幸いである。「日本人はフィジカルが劣っているから、世界の舞台で通用しない」という言説もあるが、あれは誰かが言い出した嘘だ。172cm・66kgの身体という『長所』を最大限に活かしたバロンドーラーを目の前にして、果たしてそんな言い訳が出来るだろうか?

 

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