白い巨人よ、永遠に

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ルカ・モドリッチ解体新書〈1-1〉おもてなしパス

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第一章 味方を活かすプレー

 

〈1-1〉おもてなしパス

 

モドリッチが素晴らしいパサーであることには異論が無いだろう。だが、彼のパスに思いやりの念が込められているということは、あまり知られていない。

 

モドリッチはパスの受け手の特徴と、現在のゲーム状況(相手の立ち位置・スペース・スコア)を総合的に考えて、最適のタイミングで、最適のエリアにパスを出してくれる。これはパスをもらう側からしたら、願ってもないことだ。

 

C.ロナウドやベイルのようなスプリンターは、前に出て行くスピードを殺されたくない。彼らはあまりにも足が速いため、走っている最中に足下にボールをもらっても、次の瞬間にはその何メートルも前方にいることになる。だからパスは、足下ではなく前方のスペースにほしい。相手DFとの駆け引きに勝って裏に抜け出し、3・4歩先に落ちたパスを足先でタッチしてそのままハイスピードでゴールまで向かう。そんなプレイが出来るようなロングパスを理想としている。

 

逆にクロースやイスコなどのテクニシャンは、利き足の足下にピタッと吸い着くようなショートパスを望んでいる。中央のエリアはサイドと違い、味方と相手の選手が密集しておりスペースが無いため、ボールを収めることが難しい。ちょっとでも油断していると相手のプレスが来るため、ボールをもらった瞬間にターンしてキープできるような、扱いやすいパスか欲しい。

 

パス交換とは、受け手と出し手の瞬間的コミュニケーションだ。双方のイメージが合わないと、パスは繋がらない。どちらかが独りよがりなプレイをすればパスは届かず、相手ボールとなり、今度は守備をする羽目になる。攻撃的な選手は、たいてい守備が苦手だし、苦手だから巧くない。だから自分たちでずっとボールを保持したり、ゴールを積み重ねることで失点のダメージを減らしたい。パスミスしたり、トラップミスをする選手は軽蔑され、だんだんとボールが回されなくなっていく。

 

しかし、モドリッチは受け手の発注通りにパスを送ってくれる。自分の思い描く最高のプレーイメージを共有して、「いってらっしゃい!」と背中を押してくれる。だからみんな、モドリッチのことが好きになる。「俺のこと、ルカはわかってくれてる!」と思うのだ。このようなタイプのパサーを、自分は《職人パサー》と呼んでいる。

 

職人パサーとは対照的に、《王様パサー》というタイプも存在する。王様パサーは、自分の思い描いたプレイを実現させるためにパスを出す。意表を突いたタイミングで、頑張って走らないと追いつけないような場所に、トラップするのも難しい軌道の、速いパスを出す。どちらのタイプのパサーが求められるかはチームカラーによるが、世界中からその国一番のエゴイストをかき集めているようなマドリーでは、モドリッチのような職人パサーの方がフィットする。みんながみんなエゴイストだとチームがギクシャクしてしまい、上手く機能しないのだ。

 

ちなみにモドリッチは、ショートパスも巧いが、ロングパスも巧い。ボールが前に行きすぎないようにバックスピンをかける気遣いをするし、守備組織の隙間を貫く、カーブの軌道も計算した華麗なるアウトサイドも出せる。コーナーキックも巧い(デシマでの決定的アシストとか!)が、それはクロースに任せているようだ。おそらく、コーナーからのカウンターケアをしたい(守備も自分でしたい。少しでも勝てる確率を上げたい)からではないかと推測している。

 

総じて言うと、モドリッチは職人パサーなのだ。彼が送り出すパスには、必殺ノールックヒールパスでお馴染み《ショートパスの貴公子》グティや、必殺50mピンポイントクロスでお馴染み《ロングレンジスナイパー》ベッカムのような派手さは無い。それでも相手が足を伸ばしても届かず、受け手が発注している通りのエリアに、絶妙なタイミングでパスを届けてくれる。

 

『パスにはメッセージが込められている』と言われるが、彼のパスには「あとは君に任せたよ」「信じてるよ」という、応援や信頼の気持ちが込められている。ルカ・モドリッチは《慈愛で導くマエストロ(指揮者)》なのである。

 

 

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